一番大切なもの

  「一番大切なものってなんですか」という問いがやたら多い。
 映画の「ローレライ」のコピー、「ハウルの動く城」のアンケート、スマップの新曲。 友達、家族……「愛する人」ってゆーと、今は利用されそうでちょっと言いたくないなぁ。
  「自分」って答えたらヒンシュクかなぁ。だって自分が大切にされなきゃ人も大切にできないんじゃないの?自分のことは自分で守る、守れる。まずはこれやで。

 

父の入院

  父が入院した。グループホームからE病院へ運ばれた。電話があったその晩に船で神戸にむかう。
 心不全・肝不全・心筋梗塞・肺炎と病名を並べたら死んでもおかしくないくらいだ。今度こそあかんか、と母には内緒でいちおう黒い服も用意してゆく。
 幸い、大事にはいたらず、しばらく病院で静養することになった。
 E病院はもともと市街地にあったのだが震災を機に郊外に越してきた。清潔で開放感があり、看護士さんも親切で好感を持った。市立病院より サービスがいいかもしれない。
 1週間ほど毎日通い、父も安定したので 有償ボランティアに食事介助をお願いして松山へ帰ることにした。 退院が決まったのでグループホームへ父を帰すことにした。グループホームは父を受け入れるに当たって「何が起きても責任を問わない」 との家族の念書を求めてきた。 おむつ交換、食事介助、毎日の着替え、歯磨きなどの身支度さえろくにやらないくせに、こういうところだけ抜け目がない。
 とりあえず受け入れて貰うために、知り合いの弁護士Xに文面を作ってもらった。
  念書は消費者契約に該当しないことを指摘して、免責条項(施設側のミスが有れば責任を問える)文言にするなどXはああ見えてもプロらしいことやってんねんな。
 父にとって必要なのはたぶん生活の場だ。病気は色々あるし、体調も 不安定になるが、いわゆる医療行為は日常的には必要ではない。
 以前、むせやすく肺炎を起こす怖れがある、とホームの職員が言うから病院へ連れて行くと、循環器の医者は「胃ろうをしなさい。みなさんそうしています」とこともなげに言った。
 めちゃくちゃだ。神経内科の先生が良心的(というか当たり前の判断)で、「ホームで刻み食やとろみをつけるなどの食事の工夫が先です」と言ってくれたからいいものの、仮に「胃ろう」をしたら、父は口からものを食べられなくなっていただろう。
 生活の場として、特養を申し込んで1年経つがなんの音沙汰もない。グループホームは
「うちは自立できる人が中心ですから」と父をお荷物のように言う。グループホームでは医療行為(痰の吸引など)が行えないといった制限はあるが、、ちゃんと契約には「要介護度5まで」と書いてあるではないか。
 残り少ない父の人生を当たり前の生活をさせてあげたい。うちが特別にホームに望んでいるわけではない。区の福祉課に、特養の件がどうなったのか電話をした。
  以前家を訪問してくれた若い女性の保健士さんは、こちらの話を「そうですね、うんうん」 と柔らかく受け止めてくれる。さすが難関をくぐってきただけあって如才ない。しかし、「このたびグループホームから念書を求められたことについて、家族として どう対処したらいいのか」と尋ねると、
「それはご家族とホームの契約ですから」とにべもない。
「家族以外の第3者を立てていただきお話し合いの記録をなさってください」
「法律相談は日曜日以外の…」
「或いは他の施設に変わっていただくか」…。
 あのね、市には事業者に対して監督責任ってものがあるんじゃないのっ!? こーゆーことさせてていーわけ? こっちは高いお金払って、これでもまだマシな施設を選んだんだ、っての!!
  家族は自己責任・自助努力を十分しているのに、完全に行政の責任逃れじゃないか。私はキレた。マジで。人をバカにすんなよ。 ホームの質が悪いのは仕方ない(よくないけど)として、こういう仕組みを作ったのは 国と行政だ。オラいつか裁判おこすだにっ!!

 

たえこしゃん

  E病院はけっこう居心地がよく通っていてもそう苦痛にならなかった。
 いつものように父の病室にむかう途中、ナースステーション近くの病室から
「ちょっと、たえこちゃん!!たえこちゃん!!」とおばちゃんの声がする。
 どうもわたしを「たえこちゃん」とカンチガイしているらしい。私が通るたびに 「たえこちゃん!!」と大声を出している。
 きっと「たえこちゃん」は24〜25さいのいまどきの女の子なのだろう。そう勝手に想像していた。
 あるときおばちゃんの病室をのぞくと20代後半とおぼしき 女性が見舞いに来ている。たぶん「たえこちゃん」だ。 (つづく)

 

たえ子しゃんU

  しかし「たえこちゃん」はわたしの期待を見事に裏切った。
  うさちゃんイラストの白いトレーナーにポシェット斜めがけ。紀宮さまのようなマシュルームカットで(20代後半ね)、おデブさんのメガネさんだったのだ。
 ちょっとぉ〜、なんでわたしと間違えるかなぁ…。