ウ〜ッ!マンボ!!

  NBセンセイの奥さんが入っている高齢者施設の理事Yさんのあいさつ。
 移動する車の中で、センセイは奥さんに寄り添い、頬を寄せて 歌を歌ってあげていたという。
 夫婦の絆、というかセンセイの愛情の深さがうかがえる。
 運転していたYさんはその様子をミラー越しに見ていたというせつない話だ。
 みんながその様子を思い浮かべしんみりしているそのときだった。
 ♪チャンチャン、チャカチャカチャン、チャカチャカチャンッ! ウ〜〜ッ、ハァ〜ッッ!!
  突然、携帯電話の着メロ(しかもマンボ)が鳴り響いた。
 だけどそこはさすが、リベラル人権派のYさん。気を取られることもなく淡々と話を続ける。
 早く着メロを止めてくれ、と私は祈るような気持ちでいた。でないと、せっかくのええハナシが台無しになる。しかし、持ち主が気づくのが遅く、 マンボは
  ♪チャッチャチャラッチャ、チャッチャチャラッチャ・・・
 しばらく鳴り続けた。

 このYさんとの会話。
 Yさんの運営する施設は、年金でなんとか入れる値段を設定して、厳しい資金繰りのなか、まさに経営努力で質の良いサービスを目指している。
「ダンナさんはちゃんとお仕事行ってるの?」と私にゴローのことを尋ねてきた。
「Yさんから言ってやってくださいヨ。年金無いとYさんのグループホームも入れないよ、って」
 するとYさんは
「そりゃ私もムリだ」
 と朗らかに笑った。
 やっぱ老人寮しかないか・・・。

 

根っこはひとつ

  NBセンセイの祝賀会にはいろんな人が集まった。
 障がい者や、施設関係者、在日外国人、教え子、行政の人・・・。
 みんなのあいさつを聞いていて思った。
 「命」や「ひとりひとりが大切にされる」という同じ根っこでみんなつながっているんだ、と。
 集まっている人たちはセンセイの歩いてきた道そのものだ。 センセイは、いろんな不当なことや、小さいけれどおかしいなと思うことに対して、とりたてて「闘う」姿勢を取らない。
 障害者支援費制度についての行政の人とのやりとりを聞いても、一方的に正論を吐くようなことはせず、「あなたならどう思いますか?」とたずね、対等な関係を築き、地道に「なにが大切か」を伝え、わかりあうことに力を注いでいる。
 多くの人の理解を得ることができたのも、センセイを支える人が絶えないのもそのためだろう。
 短気で意地が悪いわたしだけど、センセイが身をもって示してくれた見本から、少しでも学びたい。
 だれや、「ムリや!」とか抜かしとんのは!

 

続・有料老人ホーム見学

  家の近所の有料老人ホーム。 やっぱり家から近いのはありがたい。
 でも、併設の老健の雰囲気がイマイチだったのでどうも乗り気になれない。
 母の代わりに見学に行った。
 ロビーには洒落たソファと 立派な本棚に講談社の百科事典。そして癒し系オルゴール曲。
 ああ・・・。
  「施設長が不在ですのでわたくしXXがお話しさせて頂きます」
 名刺を渡すでもなく、首に下げていた名札を私の目の前に突きつける。
「で、お父様の具合は?」と聞くので、 尿カテーテルがあることを告げると、
「それは医療行為にあたりますからね。ウチでは対応しかねます。 他の施設の方もご存じのハズですよ」とにっこりつくり笑顔。
 看護士のいない夜間に突発的なことがなければ大丈夫ですよ、 といって受け入れてくれる施設もある。要はやる気がないのね。
「とりあえずお部屋ご覧になりますか」というので、とりあえず見てやることにした。
「リハビリなんかは?」
「ここではおうちと同じように楽しく暮らして頂くことを 目標にしてます。病院ではありませんので特別リハビリは しません。おうちでもわざわざ機械を置いてやりませんよね」
  と例のつくり笑顔でにっこり。
 海が見渡せる屋上ラウンジに案内された。
 人っ子一人いない。暖房が入っておらず寒々していた。
「ここでお誕生会なんかをするんです」
 一番良い部屋をどうして毎日使わないのだろう。
「あの、お風呂は?」
「すいません今、入浴中なので。でもこの展望ラウンジと同じように海 が見渡せる展望大浴場があります」
「機械浴は?」
「はい、もちろん大浴場が無理な方のために機械浴もあります」
 展望大浴場と機械浴。この落差はなに?!
「この施設で介護度の一番重い人は?」
「はい、要介護度3です」
 これじゃあ、もしカテーテルが取れても介護度の重い (といっても要介護4)父はお荷物になることは目に見えている。
「もうすこし老健などでリハビリなさってからお申し込みされてはどうですか?」 と言う。
 なんのための「介護付き」有料老人ホームなんだか。
 向こうもやっかいな老人を背負い込む気がないのが見え見えだったから、さっさと話を切り上げた。

 

続・有料老人ホーム見学2

  もう一カ所、どうしても母が見ておきたいというので、一緒にタクシーで高級住宅地の中にある施設に行ってみた。
 雰囲気はそんなに悪くなさそうだ。母はこっちがいいと言い出すかもしれない。
 入り口の簡単な応接セットに案内される。見渡すとロビーには習字で「敬愛」と施設の基本理念が掲げてある。
 「敬愛」、かぁ・・・。ビミョーな響き。
 「博愛」ならともかく、「敬愛」って、こっちと向こうというふうに線を引いた感じがする。
 担当の看護士らしきおばちゃんに父の具合を伝えると、
「ここは見学に行かれましたか」
 と、よその施設の広告を出してきた。ああ、ここでもおよびでないのね。ちなみにそこは行ったことのある施設だった。
「はい、行きました。そこは入居金が2800万円もしたので」
 というと、初めて知ったようでビックリしていた。
「では老健でリハビリされてからになさっては いかがですか」とここでも言ってきた。
 高齢者にとって、環境が激変すること についてどう考えてるのだろう。 それに一時的に体調が良くなったところで、長い目でみれば下り坂になることはわかってるのに。施設にとっては介護度が重い人は「招かざる客」なのだ。
  母は見学慣れして、 「お風呂は?機械浴はあるんですか?」なんて聞いている。 (ここは一般浴と機械浴)
「部屋には家庭的な雰囲気を出すために 一部屋ごとにお花の写真と花言葉を添えています」だとさ。母もここでは父は大切にしてもらえないと敏感に感じたようで、 むしろすっきりと割り切ったような面持ちだった。施設を後にした後、
「花言葉、なんてどーでもえーわ」と母は吐き捨てた。
 さすってくれる手の優しさ、動作のひとつひとつで 人の気持ちはいくらでも変わる。 もう少しの愛があれば、と思うことが多い。
 結局、三好春樹の介護を勉強している(前回訪問した)施設に入居を申し込んだ。 入居者が増えたらどこまで質を維持できるかわからないけど、今のところアタマ一個分飛び出していた。尿カテーテルが心配な母に対して、
「膀胱訓練をやっていきましょうね。 カテーテル、取れるといいんですね。ご家族だったら当然です。 気長に考えましょう」と言ってくれた。母に対してあきらめることばかり説得しようとしていた私にとって 、気持ちを受け入れる、ってこういうことなんだな、と考えさせられた。
 契約のためみたび施設をたずねた。ロビーでオルゴールの曲がなっている。
 なーんだ、ここも、か。
 施設職員に入居や契約について説明を聞く。 「お父さんが大きな声を出したりしてみなさんのご迷惑にならないか」 と母が心配を伝えると、
「あまり気を遣わないでください。みなさんもお年を取ってゆかれますので、逆にご迷惑をかける方もででくることもあると思いますので」
 母は気をよくしたのか顔が明るくなった。そして帰り際に
「モーツァルトの音楽かけてるんですね」と言った。そういえば、さっきのオルゴールの曲から変わっている。職員は
「耳障りですか?なら止めます。職員がみんなこれはどうやろ? なんていってCDたくさん持ってくるんですよ」
 全国の施設がこれくらい前向きになってほしい。そして誰でも入居できる値段であってほしい。