シューカツ記〜「受付嬢」編〜1

  新聞の求人広告で、受付嬢のバイトを見つけた。
 年齢制限はいちおうクリア。弁護士事務所から返却されてきた履歴書の日付だけ書き直して発送!
 数日後、「面接と試験」の案内が届く。
 おっしゃ!試験ならまかせとけ! さすがに今度は「好きな歴史上の人物」なんて 問題はあらへんやろ。
 当日。 「受付嬢」(?)だけあって、会場にはそれなりに雰囲気のある人が多い。  わたしよりチンチクリンなのがいないか見渡すと……
 お、いたいた。親しみを込めて笑顔を送ると、向こうも 同じことを考えていたのか、苦笑いをしている。
 会場にジャストで着いたのは私くらいで、みんなもう試験問題を解いている。
 漢字の読み書きに始まり、四字熟語、2次方程式、そして、「敬語になおしなさい」の書き換え問題。
 Q1 「名前はなんですか」
 Q2 「知ってますか」
 Q3 「わかりません」
 Q4 「そちらへ行きます」 ・・・等々。さすが「受付嬢」らしい問題だ。
 わたしは試験中、ちょっと余裕があると別のことを考えてしまう悪いクセがある。
 たとえば「関西弁になおしなさい」と問われたとしたら……
 A1「自分、名前なに?」
 A2「知ってはりまっか」
 A3「わっからへんっ、ちゅーねん!」
 A4「待っとれや」
 気分はすっかり「番長」。肩で風を切って面接へ。
 面接でもハキハキと答える他の人に比べ ニヤニヤとしまりのない笑みを浮かべるわたしはどうも場違いで、早くその場を去りたかった。
 自己PRでは、「しんどい人を介助したり、気持ちに添えるよう 努力できます」と思いつきで言った。面接官はフムフムとおおいに頷く。リアクションがいいぞ。
 そう言えばこの事務所は福祉財団のメセナ事業みたいなもんだ。おっと、もしかしたら脈アリ?
 数日後、面接先の担当者から留守番電話が入っていた。 「結果は後日郵送」と言われてたので、ははあ〜ん、さては事前のオファーやな。と思った。
 病院に入院中の父にも 「わたし受付嬢のバイトするかもしれへん」と伝えた。
「アンタなら大丈夫や」と父は意味不明の返事をした。
 翌日、電話がかかってくる。 わたしはありったけの愛嬌を振りまいて
「わざわざお電話をいただきまして・・・」とあいさつした。
 すると……【つづく】

 

シューカツ記〜「受付嬢」編〜2

    ……すると、向こうの担当者はとてもバツが悪そうに、 でも断固たる調子で、
「たいへん申し訳ありませんが」と切り出してきた。
 えっ?えっ?  すっかり「受付嬢」になるつもりだったので、向こうが何を言わんとしているのか とっさにわからない。
 担当者は(そんなこったろうと思った)と言わんばかり、電話の向こうの声が笑っている。
「いや、あのですね、受付の方はちょっと今回はアレなんですが、どうでしょう、事務の方でアルバイトなど。受付と違って、まぁ、お客様に直接接する、ということはないのですが・・・」
 ちょっと待ってヨ。それじゃまるでわたしを人前に出すのがなんか問題あるワケ? だんだんと声がトーンダウン。
 担当者は私のとまどいを察知したのだろうか、電話の向こうで笑いをこらえてる気がしてならない。
 「アンタなら大丈夫」といった父の言葉は、単に親バカ というより、なんの根拠もないデタラメということが 証明された。

 受付嬢はだめだったけど、事務の方で、ということで、 改めて面接。
 同じ会場へ向かう。もう緊張感などない。
 「どうぞこちらへ」と案内された事務所のソファで待たされた。
 見回すと、活気がある明るいカンジのする職場だった。おネエチャンはキレイだし、けっこういいカンジ。事務でもいいかも、と思っていたら 「お待たせしました、どうぞこちらへ」  とソファから移動させられ、そこの事務所を後にする。
「すいません、ちょっとここから少し歩きます」
 え?今の事務所とちゃうの?
 ビルの非常階段を降りて、細い廊下を歩き、倉庫を横切って、裏口の明かりが見えたころ、 「こちらです」と息切れされながらつれていかれたのが、新しい職場だった。
 おばさんが3人、にっこり笑って迎えてくれた。

 

スピリチュアル

  バスに乗っていたら、隣のおばさんが熱心に 本を読んでいた。なに読んでるんやろ? と、のぞき込んだら、「浄霊」とか「先祖」 だとか書いてあった。このおばさん、そーとーお金つかってるんやろなぁ。
 電車に乗ったら25,6才の若い女の子2人組がなにやらしゃべってる。
「ホンマ、信じへんのやったらそれでもかまへんねん。 それは『縁』が無かった、ということやしな・・・」
 どうも片一方がオルグってこれから集会(?)に 連れて行くところのようだ。
  女の子の会話は続く。
「教科書で習ったやろ?日本は『神の国』・ 『ジャパンの国』って」
  なんや、『ジャパンの国』って?! エキゾチックジャパァ〜ン!!ってか? それに『神の国』は教科書ではなく、森サンに教わったんちゃうか。
「日本には昔から色々来たやろ?遣唐使とかモンゴルとか。 それほどすごい国やねん」
 おいおい、どんな歴史を学んできたんや!!
「へんな宗教みたいにピョンピョン跳ねたりしいひんし」
 お嬢さん、ダメだよ、そんなとこ行っちゃあ。 みのもんたに代わって言ってやりたい。いや、その前に歴史の勉強や。
 病院内の喫茶室での、おばさんの会話。
「手術中、ワタシ心の中でずっとお経唱えててん」
 危うく成仏するところだったかも・・・。
 一時下火になったように思えた新興宗教、 今再びブームなのかもしれない。

 

この姉にして

  少し年の離れた姉がいる。
 ちょっとおバカなわたしは姉にとって いいおもちゃだった。でも、よくかわいがってくれたほうだと思う。
 誕生日にはいつもなにかしら買ってくれた。
 ただ、自分がほしいものを買うものだから、「タイガーマスク」の着せ替え人形だとか、ダリアお風呂セットとか、私の希望とは微妙にズレていた。
 それでも 「お姉ちゃん」がセレクトしてくれた プレゼントは私にとって特別だった。 (ヘルメットをながめ、違うな、と思うことはあったが)
 最近姉との電話で、ふと昔誕生日にかってもらった 「ウルトラ隊員」のヘルメットの話になった。
 姉は思い出したように大笑いしながら言った。
 「あのころ私は真剣に日本に大地震が来ると 思っていた。だから私なりにかわいい妹を守りたい、と思いヘルメットを買った」のだと。
 ノストラダムスの大予言や日本沈没が流行っていた頃のことだ。
 でも大地震が来たとき、そんなもんかぶって死んだ方が恥ずかしい、って!