下町の名医

 

  引っ越しの時に引いた風邪がまだ治らない。夜になると咳き込む。 とうとう医者に行くことにした。
  さてどこの病院へ行くべきか。 なんといっても「ドクタークマひげ」が実在しそうな街なのだ。しかもここは大阪。どんな医者がいるかわからへん。
  団地の前にある医院の前には自転車がならんでいる。そこそこはやっているなら信用できそうだ。
 入るなり、モーツアルトのレクイエムが鳴っている。おいおい縁起悪いで。 と思ったらテレビドラマだった(しかも医療モノ)。ビデオテープなので、どうやら医者の趣味らしい。とゆーか、趣味で医者をやってるのじゃないかと不安になる。
 順番がまわってきた。混んでいたのは評判がいいからでなく、先生の診察が遅いからのようだ。患者は年寄りが多くほとんどはリハビリらしい。 わたしの前の患者のおばあちゃんに先生はドアごしに
「そのままシップ貼っといてな」と指示していた。そんだけかいな。
 そしてわたしの診察の順番。先生はやっぱりへんな人だった。わたしは優しいし大阪人というものを知っているからまだ大目に見れるが、はじめての人なら絶対怪しむだろう。
  見た目はココリコの田中。年は40代くらい。猫背で机にむかってカリカリカルテに書き込んでいる。頭はぼさぼさでシャツの襟はすり切れている。足は裸足にサンダル。
 人を見た目で判断しては行けない。ゴローだって他人から見たら同じようなもんや (いや、相当近い)。
 しかし喉が痛いというのに、いきなり手をさすりさすりする。
「漢方の見立てみたいですね」とフォローをいれると(誰のために!?)
「そんなん違います」ときっぱり言う。(じゃあなんやねん!!)
 聴診器をあてるのもやたらていねいだし、お腹の触診もソフトタッチなのがキモい。
「まっすぐこっち見てね」と言ってリンパのぐりぐりを触ってくれるのだが、まっすぐ見られないぐらいケッタイな人で目のやり場に困った。
 軽いぜんそくという診断だった。アレルギーの可能性もあるという。
「河川敷で緑も多いのに、空気悪いんですか?」
「川と言っても淀川ですからね。なんの花粉が飛んでるかわかりませんよ」
 先生の説明を聞きながら医院の中を見回した。ふつう額に「医学博士○○○○」みたいのがかけてあるのに、ここには無い。いやどこかにあるのだろう。あるに違いない。
 ここは淀川の河川敷。ホンマになにが流れてるかわからない…。
 えらいこっちゃ。

 

タクシードライバー

  バスがなくなったので駅からタクシーで帰ることにした。4kmほどだから2000円程度だろう。
 念のためホテルに横付けしてあったKタクシーの運転手に聞いてみる。
「XXまで2000くらいでいける?」
「…」
「XX町。○○通りの」
  黙ってるので説明すると、おっちゃんはそれをさえぎり
「それはわかるけど、なんぼ持っとん?」
まるでわたしが無賃乗車するみたいやんか。失礼な。確かにお金は有りそうには見えないが。
「3000円ほどあるけど…」。見下したような顔で
「それやったら行けると思うけど」
腹が立ったから「だったらえーわ」と断った。そんなにかかるはずがない。
 他のタクシーに聞いてみたら 「あそこのタクシー会社は道を知らん人や。女の人は乗ったらあかん」 と言った。ぼったくるのだ。みんなじゃないけど。
 久しぶりに都会の洗礼を受けたわ。

 

あーしんど

  関西のおばちゃんはすぐ「あーしんど」という。
 あーしんど。ほんましんどいなぁ。すぐしんどい−−と言えるから、しんどい人への共感が持ちやすいのかもしれない。ホンマか。
 だるい、のでも、かったるいのでもなく、 なんもかんもとにかく「しんどい」のだ。

 

住めば都

  このあたりは子供がよく遊んでいる。団地の公園で、路地で。
 コンビニには駄菓子がおいてあり、放課後はそこできゃーきゃー走り回っている。
 私が子供の頃のように、いろんな学年の子がいっしょになって鬼ごっこだのブランコの立ち漕ぎなどにいそしんでいる。
「あ、あーちゃんの弟クンだ」
「正解。ピンポーン」
なんて具合に垣根がない。
 あんまりお金持ちはいなさそうだから、お母ちゃんがパートから帰ってくるまでみんなで遊んで待ってるんやろな。
 そういえば塾が少ないな。塾もファミコンもお金かかるもんな。…そんなことを考える。
 田舎ではよそ者にも「こんにちは」とかあいさつ する子供が多いけど、ここの子らは大人を無視して子供同士で興じている。大人の顔色を窺ってるより健全だし 変な人についていく心配もない。