いよいよホンモノ?

  「市民からの反対意見はほとんどない」と、「坂の上のまちづくり」について行政はいつも言う。
 このまちづくりについての「わいわいトーク」という公聴会が今年で4回開かれたというから、会でどのような市民の意見があったのか、報告書を情報公開で請求した。
 受け取り日に取りに行くと公聴課の若い職員が きていた。「なにかわからないことがあれば」ということだったのでざっと目を通すと、4回のうち2回分の報告書しかない。提出されていない理由は「特に異論がなく、行政説明で終わったから」だそうだ。
 「ほんとに市民からの問い合わせってないの?」 とその職員に尋ねると
「わくわくメールにはけっこう問い合わせありますねぇ」と言う。 まちづくり課の担当者と言ってることが違う。
「まちづくり課の人はほとんど意見はない、って言ってたよ」と言うと
「そんなこと無いはずですが。公聴課から担当部署へまわしますから」と、苦笑いして首を傾けている。
「じゃあ、そのわくわくメールもどんな意見があるか見せてもらおうか」と 言うと、情報公開担当のニイチャンはひょいと出てきて
「やりますか?やりますか?」と請求用紙をピラピラと私にちらつかせた。
 昔はやる気のなさそーな人だったが、今回は結構ノリノリだ。公聴課のニイチャンにとっては、ヤブヘビだったなぁ。   200412

 

逮捕しちゃうぞ!

  情報公開で得た「坂の上の雲」のまちづくりの資料を受け取って、居酒屋Xを訪れた。
 すでに先客がいる。地元大学教授たちらしい。
「こちら坂の上の雲に反対しているレイザルさん」 とマスターが言うと、大学のオジサンたちはさんざんにまちづくりを批判した。大学の先生や「知識人」たちはみんなこのまちづくりを、 飲み屋レベルではボロクソに言っている。でも、シラフの時に外で言ってほしいワ。
 しばらくして入れ替わりに別のオッサン2人が入ってくる。
「いやぁ、今日はほんまイイ酒が飲めた」。けっこう酔っている。忘年会の2次会だろうか。さっきの人たちとはちょっと雰囲気が違う。マスターは、私が渡して机の上に置いていた報告書をいつの間にかしまっている。
 肩書きなど聞いてもないのに部下らしいオッサンは喋る。
「この人はね何十年も警察のお世話になっていた人なんですよ」
「あ、じゃあ今日が出所ですか?おつとめご苦労さんです」と言うと一瞬引きつったが、それでも上司らしいオッサンは上機嫌で話す。
「ワシはな、今の会社を大変革してから潔く辞めたいんや!」
「ワシいくつやと思う?」
「さ、さぁ、63歳くらいですか?」
「ドンピシャリ!や」
満足そうだ。 ってことは天下り先に居座って「大変革」して「潔く辞める」ってか? そんなことえーから、とっとと辞めてくれ。
「最近、墓を買ったんや。町が見下ろせる高台にあって陽がさんさんと降り注ぐいいところや。 みんなそこへお参りに来て気持ちよくなって帰って欲しいんや」。誰がこんなオヤジ死んでまで会いに行くねん。
「家内は『そんなん石買ったら1千万円もするのに誰が払うの!』て言うんやけどな、そんなんワシのおこない見て孫らが『墓建てたろう』って言うかもしれんやろ」 。言わん言わん。ホンマはた迷惑なやっちゃな。
「そんなに職場が好きなら警察の敷地に建てちゃえ! あ、もう場所決めてたりして」とからかうと
「そうや。いつもションベンして苔むしとる」 。マジかいな。でもちょっとオモロイ。
  オッサンは自分で戒名も決めている。 「中警院鷹…」とテーブルに指で書いて説明する。
「中警って、中央署みたいですね」と言うと
「そこにお世話になってたんや」と言う。 アノ世でも警察のご厄介になりたい人もおるんやな。
「この鷹ってのはもしかして鷹ノ子町に住んでるからじゃぁ?」と おそるおそる聞くと 「その通り!!」と言う。もっとヒネらんかいっ!! 「中警院鷹…」のあとは葬儀委員長に決めてもらうんだそうだ。 マスターは
「鷹が翔けるで鷹翔はどうや」と言う。さすがインテリ。
「鷹泉もええな」とおっさんは得意げだが、 私には地元の鷹ノ子温泉のイメージがまっさきに浮かぶ。
「中警院鷹の子温泉。あ、鷹泉和(ようせんわ)なんかどう?」 とからかった。
 おっさんの酔いが醒めつつあるのを察し、 自分の勘定をすましとっとと帰った。

 

見識が問われる

  記念館問題のビラの内容についてトモジイに相談した。
「やっぱさ、今はハコモノ先行を強調すべきだよ」とアドバイスしてくれた。 困ったときの「風」だのみ、だ。
「それとさ、市長が『責任取る』って議会で言ったろ?それこそ無責任な発言だよな。『見識が問われる』って書いてやれよ。見識が問われるって、なんかさ、それを言った人に見識があるような便利な言葉だと思わん?」
トモジイはイヒヒと笑ってそう言った
あ、相変わらずセコイ…。
 ナミさんがあきれて見ている。 (1/6)

 

市民運動も高齢化なのら

   年明けて最初の「坂の上」会議。1月6日の朝日新聞にも「坂の上の雲のまちづくり」が載ったので、みんなちょっとは元気が出たかな、とおもったのだが、山田さんの顔色がよくない。
「どしたん?体調悪いんですか?」
「いやぁ、最近血圧が高くて。計ったら下が100超えてたんですよ。」
「ええ〜っ!大事にしてくださいよ。 後継者もいないんだから」
市民運動の世界も少子・高齢化問題は深刻なのだ。
「あ、この前の集会の写真できてますよ」とバンバン。しかしどの写真を見ても会場に映っているのは真っ白な頭とハゲ頭ばかり。
「なんか枯れた雰囲気が漂ってるねぇ。」とわたしが言うとバンバンは
「モォ!レイザルさんはヒドイなぁ!」と女の子みたいに口をとんがらしていた。
 バンバンとは「坂の上の雲」の集会で知り合った。 フツウの白髪頭の温和そうなおじいさんなのだが、革ジャンにシルバーの指輪を身につけてバイクに乗っていたので「タダモノではない」という感じがした。劇団に参加したり、アルバイトで地元のコマーシャルに出演(もちろん おじさん役)したりと、やっぱりちょっと変わっている。
  最近では憲法とイラク戦争と教育基本法の運動に老身をささげている。 もともと学生運動の経験はなく、ただ高校を出てつとめていた会社で組合運動を やってる人たちを見て「すごいなぁ」と憧れ、パシリをやっていたそうだ。 市民運動に縁がなかったという点で私と共通している。そんな2人が今の世の中について声を上げているのだから、よっぽど ヒドイんだろうな、とヒトゴトのように思う。
  バンバンはどもりながら話す。それがクセなのか、去年患った病気からなのかはわからないけど。でもお酒はやめられない。飲みに行くと最初から「焼酎お湯割り」。カッパカッパと呑む。
「うんうん、そうね」と真剣に人の話を 聞く姿がどこか芝居じみて、わたしもつい合わせてちょっとおおげさに真似してしまう。
 学生たちにもすんなり溶け込む。でも、学生からメールをもらうと、
「レイザルさん、これちょっとなんて書いてある?」。画面の文字が小さくて読めないのだ。
「どうやって返事送ったらいいの?」。あたしも機械オンチだから、携帯相手ににらめっこ。
 バンバンは12月は駅前で「イラク派兵撤退」の座り込み。昨日は「坂の上の雲反対」のビラまき。 今日は自衛隊へ「派兵反対」のデモ。
 年が明けても風邪が治らない。老身にムチ打って命がけの市民運動だ (というと、また「ヒドイなぁ」と怒られるのだが)。
 高血圧だの肝臓病だの、足が痛いの腰が痛いの、そんな人たちが夜遅くまでビラを書いたり、寒空の元街頭に立ったり…。 こちとら命張ってやってんだ!!と言ってやりたいもんだ。