有料老人ホーム見学記 1

  風邪をひいたのが引き金になったのか、父が心不全で入院した。
 腎不全もおこしており、尿カテーテル(おしっこの管)が着けられた。
 それまでは「身体的に自立できる人」が中心のグループホームで 生活していたのだが、身体の介護度が高い父のケアは ホームでは限界に来ていた。ましておしっこの管があるとなると、お手上げだ。(勿論おしっこの管をして自宅で生活している人もたくさん いるのだが)
 幸い体調は回復したけど、退院後に受け入れてもらえる施設を探さなくてはいけなくなった。
 入院先のMSW(メディカルソーシャルワーカー)に相談する。
 @父の場合、医療もしくは介護、どちらの施設を選んだらよいか
 Aすでに入居を申し込んでいる特別養護老人ホームの空きはでないか
 B有料老人ホームで、尿カテーテル、痰の吸引ができる所を紹介してほしい
 で、答えは・・・
 @「医療的な処置は常に必要でない」ので、生活にメリハリがある 介護の場でいいだろう。
 A現在空きはなし。(男性の部屋がもともと少ない。それから 父の場合もともとの病気が多いので施設が敬遠しているようだ) 病歴については受け入れ先の主治医の判断するので、かかりつけ医の意見が反映されるとは限らない。
 Bについては「一時入居金」の払える額をあらかじめ伝え (ウチの場合200万円まで)、ある程度医療行為のできる近郊の施設をリストアップしてもらった。
MSWに紹介されたリストを片手に車でホーム巡り。
 一時、マンションのモデルルームを渡り歩いた時期があったが、老人ホームの見学は、それとちょっと似てる。けどあまり楽しいもんじゃない。
 よっしゃ。いっちょ「ネタ」にでもして気を晴らそう。
 1件目:X区の新興住宅街にある施設。
 よそのマンションの駐車場のなかを通り抜けた所にある。
 両側を分譲マンションに挟まれ、狭い斜面に3階建ての白い建物。(なんか、ヤバそう)が第一印象。
 中にはいるとピンクのカーテンに真っ黄色のソファが置かれ、ちぐはぐな感じがする。
 休みの施設長にかわって案内してくれた女性は感じが良く、併設のグループホームも意外に家庭的。
 入居金40万円 毎月15万円。
 まぁ、こんなもんかなぁ・・・。

 2件目:Y区の閑静な新興住宅街。緑も多く環境はいい。
 駐車場に車を入れるとそこは中庭。
 ギリシア彫刻風の石像が無造作に置かれ、バラのアーチには枯れ草が巻き付いている。鉄筋コンクリート7階建の白い建物は横から見ると ずいぶんうすっぺらい。
 受付で名を告げると、若い受付嬢が出てきて応接間に案内される。
 応接間からはガラス越しにテニスコートが見渡せる。 ポコーン、ポコーン、と心地よい玉の音と笑い声が聞こえる。来客用の応接間をこの施設の一番良い場所にもってきたのだろう。
  いつもいる人のために一番いい場所は使ってあげたらいいのに。 【つづく】

 

有料老人ホーム見学記 2

  広い室内に高価そうなテーブルといすだけが置いてある。
 ちっとも落ち着かない気分で部屋を見渡す。 室内には癒し系音楽が流れている。 この音楽に私のセンサーは反応した。
 私の経験上、「癒し系音楽やオルゴールのポップスソングが流れるところに ロクなところなし」なのだ。偏見と思いこみもあるんだけど。
 受付嬢から手渡されたアンケートに記入。見学だけなのに、入居希望者の介護度など、ずいぶん細かいことが項目に並ぶ。
 待っている間にトイレに行きたくなった。 職員に教えてもらって行ってみると、入居者用と来客用で分かれている。 なんかなぁ・・・。
 30分ほど待たされて、責任者登場。 30代前半とおぼしき責任者の足下に目が吸い寄せられる。 なぜかあの、マジックテープでビリッと留める 「老人シューズ」を履いているのだ。
 さらに、体にサイズの合ってない黄色のシャツにエンジのネクタイ。 いやいや、そんな細かいことをいちいち気にしてる場合じゃない。
 しかし、なぜか彼のアンバランスさばかりに気がいってしまう。
 ずいぶん遅かったやないか、と言いたげな私の視線を感じてか
  「いやあ、上でカラオケ大会をやってましてね。 私にも歌えと入居者の方たちにせがまれまして。 2曲ほど歌っていたら遅くなってしまいました」
 彼は持ってきたパンフレットを広げ説明をはじめた。 まずお金の話からしてくれるのは親切というか、ゲンキンというか。結局、話はお金の話ばかりで施設の特徴などの説明はない。
 アクビをかみ殺していたのもがまんできなくなり、 「施設内を案内してもらえますか」と切り上げた。 【つづく】

 

有料老人ホーム見学記 3

  エレベーターが降りてくるのを待っている間、 施設長は私たちの質問より早く説明を始めた。
  「この施設は企業の独身寮に手を加えたものです。 ですから前もって申し上げておかなくてはいけないことが あります」
 そう言って、どうしても構造上の理由で改築できず、老人施設として不適当な箇所を挙げた。
 ●エレベーターがひとつしかないこと。 しかもストレッチャーが入らないこと。
 ●廊下の幅が狭いこと。
 ●認知症の方もいるので、エレベーターは あらかじめ許可された人しか使えない。 (鍵がかかっている!)
 施設が説明した部分だけでも十分ヤバいと思う。 さらに私たちが気づいたことは
 ●ドアが引き戸ではなく、独身寮時代当時のままの 思い金属製のドア。これでは自力で外に出られないのでは?
 ●看護師、職員の詰め所が1階のみ。各フロアには談話室のみ。
 ●エレベーターが使えないということは、火災の時など 避難はどうするのか。
 ちなみにこちらの施設のお値段は、 一時入居金250万円 (75才の場合。高齢になるほど減額→なるほど、入居期間短くなるもんね) 月額約14万円前後。
 いくら高いお金を払って自分で選んだからといって、ホンマにここでずっと暮らしていけるのだろうか。
 エレベーターに乗って、途中の階でドアが開いた一瞬、フロアにたくさんのお年寄りの姿が見えた。なんか気の毒で申し訳ない気分になった。
 こんな施設にでも税金で補助がでる。 なんで認可すんねん!偽装マンションと同じやんか!

  そして3番目の施設へ Z区の工業団地に隣接する2階建ての民家風の建物。 職員の男性が玄関まで出迎えてくれる。
  「じゃあ、先に建物から見て頂きましょうか」
 個室にはトイレがあるのはもちろんだけど、車いす専用のトイレも各階に2つずつある。 右麻痺、左麻痺の人にあわせて反対の作りにしている。そんな施設ははじめてだった。
 風呂は普通浴、機械浴、椅子ごと湯船につかれるタイプと 3種類。入浴は週3回。
 「お風呂はお年寄りにとって楽しみですし、汚れたときもすっきりしますし」
 殺風景な庭は
「これから花壇にするか畑にするか、みんなで決めようと 思います」
 決定打は職員控え室のカウンターに無造作に置いてあった 三好春樹氏著の「新しい介護」だ。
「これを読んでるんですか」
「ハイ、夜勤などで空いた時間にみんなで回し読みしてるんです」
 こちらのお値段。 入居金120万円。月額18万5千円 月額の中には職員加算1万7千円が含まれている。入居者2.5人につき職員1人の配置は手厚い。 (特養の場合、4人に1人) 【つづく】

 

老後の沙汰も金次第(老人ホーム4)

  3つの施設を見て回ってドッと疲れが出た。
 なんなんだ、この差は! もちろん3番目がいいのはわかっている。
 いや、他の施設にしても、 これだけのお金を毎月負担できる家って、どれだけあるのだろう。 (しかもこれらの金額に介護保険費用や医療費、見舞いの時の 交通費やおむつ代などが加わる)
 確かに施設に昔のような姥捨て山のイメージはなくなった。
 でも特養がまったく不足している状態で、在宅ケアが難しい人にとって、頼みの綱は有料老人ホームだけだ。
  それがこの金額。
 月額25万円の年金をもらおうと思えば 年収700万円くらいのサラリーマンが定年まで払いつづけないと いけないらしい。
 どれだけの人がその条件を満たせるのか。
 クゥッ〜!グレてやるぅ〜っ!! 【完】