ジーンズデビュー

  妹、弟クンにありがちなように、私もとにかく 「お姉ちゃんと同じ」がよかった。
 昔、「夕日が丘の総理大臣」というドラマがあり、藤谷美和子(プッツンする前)がデニムのオーバーオール を着ていて高校生の間で流行った。
 姉も津田沼のイトーヨーカドーで買ってきた。
 うらやましくて母に 「わたしもジーンズ欲しい!」とねだった。
 母は「よっしゃ。」と張り切って、わざわざバスに乗って 八千代台の「扇屋」(のちのジャスコ) に連れて行ってくれた。
 そこで待っていたのは、お姉ちゃんのとは似てもにつかない、すそにバラの刺繍の入ったウエストゴムのベルボトムの、のびのびジーンズだった。 (ストレッチの入ったブーツカット、といえば今風だが)
 「えーやん、お腹のゴムもきつくないし。 生地もよう伸びて動きやすいし」と母は私のとまどいも意に介さない様子だった。
 学校に着ていったら案の定、
  「レイザルがズボンはいてる!」
  と冷やかされ、結局一回はいただけだった。
「なんでアカンの?せっかく買うたのに」 と母は不満げだった。

 

ミラクル部長

  新しい職場(文化ホールの事務)で初仕事。 私より若い社員の女性と、主婦バイトが2人。ほのぼのしたカンジ。
 昼前になっておじさんが「おはよう」と入ってきた。ここの部長だ。あいさつするなり、「すまん!」 と身を翻し、せわしくトイレに駆け込んだ。
 ホッとした顔で戻ってくると大きな声で
「いやあ、健康診断でバリウム飲んでたもんで」
 昼飯前に言わんでも・・・。
 別のオジサンが駆け込んできた。 「すみません!部長!!」
「キミ、すみませんじゃないよっ!」
 温厚そうな部長が怒っている。
「家で女房と子どもにさんざん怒られたんだぞ!」
 どうやら自分のパソコンをセキュリティかけずに他人に貸し出してしまったらしい。
「いろんなデータが入ってるんだ。アドレスなんかの個人情報も、家計簿も、犬の名前だって・・・」
 家計簿?犬の名前??
 部長が外出先から戻ってきたとき 「お疲れさまです」と声を掛けると
「お疲れサンよォ〜」と森進一のおふくろさんのベタな替え歌で応答。みんなが無視すると
「♪春よ来い、早く来い」と寂しそうに唄う。
 この部長サン、この春で定年退職になるそうだ。 古き良き伝統が失われるようで残念や。

 まだ仕事らしい仕事もなく、チラシを折ったり 雑用をしてると、パラパラパラ、シャッシャッシャッ・・・ なにやら音がする。
 見ると部長がトランプを切っていた。一番年長のパートの女性は軽く無視してる。
「部長、わたしもうタネ知ってるから、レイザルさんに見せてあげたら どうですか?」
 なんか私にふってへん? 部長は私の前にやってきて 「いいかい・・・」と言って器用にカードを切る。
「好きなカード引いて」
 なんか私にもわかりそうなタネやなぁ。仕掛けを見てしまわないように気を遣い、別の意味でドキドキする。部長は引いたカードを当てたり、ポケットから 不意にカードを出したり、マジックをご披露。おおすごい!とわたしが感心してると
 じゃあこれも。こんなんも。と次々披露する。
 他の人はさんざん見せられてきたのだろう。無視している。
 私はすっかり、この部長にハマってしまった。

 

「世界」をプロデュース

  ウゾーと電話で話してたとき、ウゾーがいきなり
「『世界』(岩波)ももっと売れるように作らな あきませんワ。健康雑誌の『いきいき』みたいに」
 と言い出した。
 私は今のカンジ好きなんだけど、確かに「読まなアカンで」と、 迫ってくるカンジが重くなくもない。
「じゃあ、『デモ行進でやせる』とか?」
「そうそう。」
「『爪もみながら前文を読む』とか?」
「そうそう」
「『政権交代で毒出し』なんかどうやろ?!」
 『世界』、確かにかわるかも・・・。

 

参議院予算委員会

  たしか「刺客」の佐藤ゆかりだったと思う。
 「首相、首相は尊敬する人に織田信長を挙げていますが 桶狭間の合戦の時、信長の情報収集力が今川義元を打ち破った とのことですが、首相の情報に関する認識をお聞かせ下さい」
「戦国時代は戦国武将はみな情報を大切にしていました」……云々。
 この国はどこへ行く・・・。