新しいバイオリンを買おうと思っている。
店ですすめられた50年前のフランス製の楽器を、いちおうバイオリンの先生にも見てもらうことにした。
先生は「悪くはないでしょう」。
同じ値段でイタリア製の新作もあったのだが、音の響きがいまひとつに感じられた。 そのことを先生に言うと、
「最初に鳴らなくても、弾いていくうちに鳴り出すのも あります。むしろ最初からあまり音が出すぎるより、 出ないくらいの方が扱いやすい場合もあります」
だって。 私が、
「自分という人間にたとえてとてもよくわかります」と言うと、
いつも物静かで穏やかな先生が、腹を抱えて笑っていた。